自発核分裂について
臨界とか自発核分裂とか
今回、東電で、キセノンが発見されて、「臨界か?」「いや自発核分裂だった」という話になりましたが、「自発核分裂ってなに?」「それってヤバいの?」という疑問を見かけたので、簡単にまとめるものです。ツッコミ歓迎。
原子ってなに?
ちょっと話をさかのぼって、まず原子って何?ってところから。
宇宙にある物質は、様々な原子がつながってできています。
原子同士がつながったり離れたりすることで、様々な物体ができます。
たとえば、おいしそうなハンバーグは、おおざっぱに炭素や水素、酸素、窒素といった分子が組み合わさってできています。
これを焼きすぎて黒焦げになった場合も、原子の内訳はだいたい同じで、ただ繋がり方が変わっているだけです。*1
地球上にある無数の物体は、すべて原子の組み合わせでできており、たとえばこれを煮たり焼いたり焦がしたり溶かしたりしても、原子そのものは全く変化しません。*2
核分裂ってなに?
では、原子は絶対に変わらないのか、というと、そういうことはありません。
原子は、陽子と中性子でできている原子核と、その周りにくっついた電子で、出来ています。
この原子核が壊れる、変化する場合も、確かにあります。
普通の物質、たとえば、炭素とかの原子核は、非常に安定していて、滅多なことでは壊れません。
それでも無茶苦茶な圧力をかけると、原子核自体をぶっ壊すことができます。
あるいは、ほうっておいても壊れる可能性はゼロではないので、ものすごーーーく気長に待っていると(どれくらい気長かというと、百億年とかを平気で超える場合もあるくらい)、そのうち、一個くらい壊れるかもしれません。
いずれにせよ人間がやるには、あまり現実的ではありません。
なので、原子炉とかでは、もっと不安定な原子核を使います。
たいていの原子核は、中性子と陽子が一対一か、中性子がちょっと多いくらいで出来ていますが、たまに中性子がもっと多かったりするのがあります。これらを「同位体」と言います。
普通の炭素は中性子6個、陽子6個で出来ていますが、中性子7個の炭素や、中性子8個の炭素もあります。
こうした同位体は、普通の炭素に比べるとバランスが悪いので、壊れやすくなります。
さらにバランスが悪くなると、いいかげんに積んだ積み木の山のように、ほっといても、どんどん壊れるものがあります。
こういうのを「放射性物質」と言います。
ちなみに、さっきも書いたとおり、「ものすごーく長い目で見れば多くの物質の原子核は、そのうち壊れる」と考えられるので、「放射性物質」とは、「人間が集めて観測できる範囲で、壊れる物質」と言い換えてもいいでしょう。
はい、そこでようやく最初の話に戻りますが、「自発核分裂」とは、この、不安定な放射性物質が、勝手に壊れてゆくことを言います。*3
ほっといても壊れることと臨界
放射性物質が壊れるときは、様々な粒子(放射線)と、エネルギーを放出します。このエネルギーを熱として取り出して使うのが原子炉の原理です。
さて、放射性物質は、「自発核分裂」として、ほっといても分裂しますが、これだけだと、あまりまとまったエネルギーにはなりません。
そこで手を加えて、うまくいっぺんに分裂するようにするわけです。
自発核分裂で原子核が壊れる時、原子核によっては、中性子という粒子が飛び出します。
この飛び出した中性子が他の不安定な原子核に当たると、なにせ不安定なので、そこで原子核が壊れます。
壊れた原子核からまた中性子が飛び出して、他の原子核に当たることもあるでしょう。
これがうまく続くと原子核が一挙に連鎖して壊れてゆきます。これを連鎖反応と言います。
この連鎖反応が、ちゃんと継続している状態のことを「臨界」と言います。
東電第二で起きていたこと
さて、連鎖反応をちゃんと制御して臨界させ続けるというのは結構大変なことです。
具体的には放射物質を狭いところに密閉して、きちんと並べ、温度を管理する必要があります。
現在、東電の所内では、温度が下がっており、中性子を他の放射性物質にぶつからないように吸収してくれるホウ素を沢山入れており、単純に考えて、残りの燃料が大きく核分裂するような臨界が起きるというのは、極めて考えにくい状態です。
今回、キセノンが発見されたことも、自発核分裂の結果だったことが発表されました。
今までも自発核分裂によってキセノンは作られ続けていたのだけど、それが今回、はじめて観測できた、というわけですね。
これまで書いたことでわかるとおり、自発核分裂というのは、放射性物質がある場所では、ずっと起きていることです。
放射性物質を完全に取り除かない限り、自発核分裂が起きていること自体は通常のことで、特に何かリスクのある変化があったわけではないと考えられます。