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夏の暑い時とて怪談など。
あれは確か小学生の時だったと思う。
友達内で、怪談大会的なものをしようという話になって、図書館で怪談本を借りてきた。
記憶がさだかではないが、真っ黒な表紙で、電車を襲う巨大な化け猫という構図だった気がした。
で、内容は、なんというか、わりと無法地帯。
民話、言い伝えっぽいものから、実話系怪談(広島のホテルに泊まったスチュワーデスが(中略)その日は、8月6日でした)、怪奇小説のジュブナイルまで、様々に並んでいた。
その中で、一等トラウマになったのが、ある語り手の話。冷房を異常に恐れる男が語ったとある科学実験の話とは……。
ええ。ラブクラフトの「冷気」のジュブナイルです。かの「クトゥルフの呼び声」で有名なH.P.ラブクラフトの、怪奇SF短篇。
さすがに小学校低学年なんで、引用元などが表記されてたかどうかは憶えていないが、確か、されてなかった気がする。
わりと普通の怪談の中に、一個だけ紛れていて、中身も恐ろしかったので真剣に怖かった。
その後、しばらく立って、ラヴクラフト全集の中で「冷気」に触れた時は、本当に興奮したのだけれども。
おもえば、さすがに小学生の頃のように真剣に怖がることはできなかった。
児童向け「怪談」本に「冷気」というのは、明らかに間違っている選択だと思うが、そういう不意のつきかたをしてくれたおかげで、豊かな読書生活を歩めた(オタク道を加速したともいう)。
紹介者に感謝、で、ある。